People

書道家 武田双雲さんインタビュー
家族を思うまごころ

家族は人が生きる力をチャージする充電器

書道家 武田双雲さん

江の島にほど近い海辺に暮らし、湘南の風を浴びながら、日々作品づくりに取り組んでいる書道家の武田双雲さん。
昨年、3人目のお子様が生まれ、今は家族みんなで赤ちゃんの子育てを楽しんでいるそうです。
そんな双雲さんに家族への思いについてうかがいました。

撮影/岡本寿 取材・文/大島七々三

※c.c.café66号にて本誌掲載した内容です。

家庭の“庭”は放っておくと荒れる

多くの書作品を生み出しながら、テレビやラジオにも多数出演中の書道家の武田双雲さん。その多彩な活動を支えてるのが家庭だと言います。

「僕は家族と過ごす時間を大切にしています。家庭は人が生きるエネルギーをチャージする充電器みたいなもの。家族と笑い、感動し、癒されてこそ、書に打ち込むことができます。一方、家庭に“庭”という字が入っているのがポイントで、放っておけば荒れてしまいます。だから『まごころ』という名の日々のケアが必要。たとえば妻への感謝を言葉にして伝えるとか、子どもと一緒に遊ぶ時間をたくさん確保する。そんなちょっとした心がけで、家の空気はふんわり柔らかくなります」

家庭では、目の前の瞬間をただ楽しむことに徹すると言います。

「僕は子どもの未来とか家族のあり方、みたいなことはあまり考えません。ただ楽しい時間を共有したいだけ。生後8ヶ月の赤ちゃんの子守も、僕にとっては最高にわくわくするデート。僕が楽しむことでそれが家庭に伝わり、みんなが幸せな気持ちになれると思うのです」

だからこそ自分にゆとりを持たせることを大事にしているとか。

毎日のささいなことがいとおしい

「家庭では毎日、何かしら事件が起きますよね。少しくらい波風が立っても変わりなく思いやりを持つには、ゆとりが必要です。自分が満たされて初めて、家族の幸せを思いやれる。自分と家族との調和が取れている心の状態が『まごころ』だと思います」

当たり前の中にある、“有難味(ありがたみ)”に気付くこと

水には格別の思い入れがあるという双雲さん。

「水によって墨の発色が微妙に変わりますので、墨を磨する水には気を使いますね。ただ書に限らず、水は人の生活に欠かせません。その大切な水が、日本ではいつでも蛇口から出てくる。世界を見渡せば、とても恵まれた環境に僕たちは住んでいます。でも人はそれをつい当たり前だと思ってしまう」

その当たり前を見直そうと言います。

「家族も当たり前すぎてつい有難味を感じなくなってしまうのですが、顔を洗った後にタオルが横にあったり、子どもが元気な笑顔を見せてくれるだけで本当は有難いこと。僕は、日常の当たり前の中にある有難さに気付き感謝することが、心地よい家庭を築くうえで一番大切だと思うのです」


日常の中の当たり前を見直すには、言葉にして伝えるのがコツだと双雲さん。

「人には環境適応能力が備わっていて、慣れることで様々なストレスを軽減させ命を維持する機能があります。だから当たり前のことに意識を向けるのはある意味、本能に逆らうこと。そこでお奨めなのが、当たり前なことへの感謝を言葉にして言うこと。たとえば妻に『ご飯作ってくれてありがとう!』とか『いつでもお水が飲めてしあわせ!』というふうに。ちなみに僕は今日も妻に『結婚してくれてありがとう』と言いました(笑)。言葉にして伝えると意識に上がってくるのです。もう一つのお奨めは、お風呂タイムを“当たり前に感謝する時間”にすること。何かのアクションに変えることで、当たり前の有難味に気づく体質に変わっていきますよ」

ただし一足飛びに家庭の達人を目指す必要はないとも。

「家族への愛情や思いやりって、クリーンヒットを狙うとたいてい失敗します。書道が一朝一夕に上達しないのと同じで、いきなり家庭の達人にはなれません。頑張ると空回りしてしまいがちです。ずっと家庭で不機嫌だった人が、いきなり『愛してるよ』なんて言ったら、かえって気まずくなりませんか(笑)。そこは、おはようの言い方から変えるくらいがちょうどいいわけです。赤ちゃんのオムツ換えも、最初はなかなかうまくいかないですよね。丁寧にやろうと緊張しているとよけいに赤ちゃんが暴れて手にウンチがついてギャーです。それが、ちょっとずつ工夫を重ねていくと、ぱっぱっと苦もなく換えられるようになる。家庭のことも小さな工夫を重ねていくことです。そうして家庭での居心地がよくなると、子どもも勉強やその他の活動が活発になるし、奥さんも気持ちが安定してやさしくなれます。だから旦那さんも気持ちよく仕事に集中して成果が出せる。いつのまにか家庭という庭が整ってきます」

そんな温かい考え方や働き方についてまとめた著書『しあわせになれる「はたらきかた」』(ぴあ)を7月に出版されたばかり。
「仕事は家庭での過ごし方に影響されますし、仕事で成果が上がれば家庭も楽しく明るくなります。この本では仕事でしあわせになるために、仕事以外の余白部分を大切にしようという僕の思いをまとめました。人の生活は静と道のバランス。その相乗効果でしあわせのスパイラルに入る方法を書いていますのでぜひ、仕事をしている人たちに読んでいただきたいです」

書についてひとこと

「ふんわりとしたひらがなで優しさと柔らかさを表現しました。家族とは互いがより幸せになれるよう思いやる関係ですが、自身と家族との調和が取れた心の状態が『まごころ』なのだと思います」

武田双雲 たけだ そううん

書道家。1975年、熊本県生まれ。東京理科大学理工学部卒業。3歳より書道家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。大学卒業後、NTT入社。約3年間の勤務を経て書道家として独立。独自の作風で話題を呼び、世界遺産「平泉」、スーパーコンピュータ「京」をはじめとするロゴや映画、ドラマ、CM などの題字などを数多く手がける。書道教室「ふたばの森」主宰。著書多数