Water

北九州 微生物が水の安全を守る

タカギの浄水器が活かせるのは、日本のおいしい水道水があればこそ。今回は日本が世界に誇る水道技術の最先端を取材しました。今や東南アジアにも輸出されている微生物を使った浄水処理技術「U-BCF」とそれを生み出した人々に迫ります。

取材・文/上坂美穂 イラスト/添田あき 撮影/笠井鉄正

穴生浄水場
北九州市八幡西区の穴生(あのお)浄水場は、微生物を使った高度浄水処理技術「上向流式生物接触ろ過」を産み出した。浄水処理過程の水の安全性を見守る水質試験所の皆さん。


ものづくりの街
北九州市は関門海峡に面し港湾工業都市として、また国際貿易港を持つ都市として栄えてきた。水道事業は明治44年にスタート。当時を写す貴重な写真。

工業都市の水がおいしくて安い秘密


北九州市は明治時代から鉄鋼業を中心に、日本経済をけん引した都市の一つ。高度経済成長期には、人口増加や公害で深刻な水質汚染問題に直面しましたが、近年は「環境未来都市」に選定されるほど、環境への配慮が評価されています。市民の「水の安心」への信頼も厚く、水道料金は福岡県内で1番、全国主要都市の中でも3番目の安さです※。
※注・水道料金は、各自治体によって異なります

このように低コストで安全な水を供給できる秘密の一つが「微生物」と聞くと驚きませんか?北九州市が独自に開発し特許を取得した高度浄水処理「上向流式生物接触ろ過技術」(略称 U-BCF)では微生物が大きな役割を果たしているのです。

「自然の川では、海底の石などに付着している微生物が汚れや有機物などを浄化してくれるのです。そこで北九州の浄水場では、取水した川の水を、もう一度、微生物に効率よく掃除してもらう環境を、人工的につくったわけです」(北九州市上下水道局 水運用研修担当係長・井上毅さん)。

微生物の姿
顕微鏡で見ると活性炭の周辺にもやもやとした備瀬私物の塊が見える。多孔質(穴がたくさん開いている)の活性炭は、微生物の絶好のすみか(写真右)。その微生物たちが仕事をしている「生物接触ろ過池」の前で、所長の筧さん(写真左)。

自然の力を活かす浄水処理
川の浄化作用を模して、川底の微生物が水を浄化させる役割を人工的に再現させる①の U-BCFは、活性炭の下から上に向かって水の流れを作っている。自然の浄化作用が活かされることで塩素の投入量も抑えられる。対して②の沈でん池、③のろ過池は、山の地層を通って地下にしみ出した湧水のように、地層を通して水が浄化される部分を再現。

U-BCFは、微生物の浄化力を上げるため、無数の穴を持つ活性炭を活用しています。「水底に暑い活性炭の層をこしらえると、微生物は活性炭の穴をすみかにして増えます。その活性炭の下から上に水を通すと、すみかにいる微生物がカビ臭やマンガンやアンモニアを取り込んで分解してくれるんです」(北九州市上下水道局水質試験所長・筧秀美さん)。タカギの浄水カートリッジにも活用される活性炭が微生物の「すみか」として活用されるのが面白いですね。

「国が推奨するオゾンをシヨウした高度浄水処理は、殺菌力も強いがコストがかかる。100万都市の北九州市でも採算が合いません。U-BCFは初期投資もランニングコストも安い。何より環境にも優しいので環境未来都市にはぴったりです」(筧さん)。

しかし、科学の最先端技術の世界において、「微生物で安定した浄水ができるのか?」という国の疑念を払拭する道のりは険しいものでした。微生物のすみかをセラミックにしたり、通水の向きを幾度も変えたりという十数年の試行錯誤の末、すべての要件を満たして、国も納得。その後、念願の特許を取得。地道な研究と信念が安全で安価な水道水へと結実したのです。

技術は海外へ。ベトナム・ハイフォン市の浄水場で導入、他の6都市でも導入に向け協議中。

穴生浄水場で2週間の予定で学ぶベトナムの研修生たちと筧さん(写真左)。

微生物の世界の無限の可能性

「毎日顕微鏡を覗いて、プランクトンを種類ごとに数えます」と水質試験所の生物細菌担当係長の加地祐毅さん。水1mlの中には何万ものプランクトンがいて、この数の増減が水質に大きな関わりを持ちます。試験所ではグッピーも水質管理の仕事を担っています。

「魚が蒸留で多数死んだとか、水質悪化が疑われるとき、採取した水にグッピーを入れて観察します。グッピーは、魚の中でも生命力が特段に強いわけでも、繊細なわけでもない、平均的な魚です。その動きの変化を見ることで、分析結果より早く原因を推察することができます」(加地さん)。星の数ほど種類があるといわれる微生物の特性と浄水効果の相関関係に関する研究はまだまだ発展途上中。「水を悪くするのも生物だし、水をきれいにするのも生物の力。生物にはいろいろな可能性がありますね」(加地さん)。水をめぐる生物と人間のドラマはこれからも続きます。

水質試験所の加地さんが手に持つ白いバットの黒いものが微生物のすみかとなる活性炭。

水質を悪化させるプランクトン。

汚染のある水中にグッピーを放すと、水底にじっとしてえらを閉ざすなどの行動を取る。

顕微鏡の中には様々な微生物が。

プランクトンを数えるカウンター。