特集 | 水を学ぶ

【水を学ぶ】ーJAPANESE WATERー 豊かな森が水を作る 多摩川源流の村・小菅村

あたり前のように蛇口から出てくる水は遠い森から長い旅をしてやってきます。

首都・東京を流れる多摩川の源流の村に、水を守る活動をする人々を訪ねました。


森の中の水の一滴が
大きな川になる

 森は水を貯える機能があります。雨が降ると、スポンジ状の土の中に雨がしみ込んで、その後ゆっくりと、ほぼ一定量に近い状態で、水を小さな川に流出させます。乱開発で木が過度に伐採されたり、手入れが不十分で森が荒れると、川が枯れてしまったり、洪水が起こったりします。

豊かな水を生む
森の3つの機能

「ダム機能」
雨水を地中にため、ゆっくりと時間をかけて流出させる。

「土砂流出防止機能」
根が土の移動を抑えるので、土砂崩れなどが起きにくくなる。

「浄化機能」
土の中を雨がゆっくりと移動する間に、汚れを取り除いてきれいな水にする。

 タカギはきれいな水を生み出す森の仕組みに注目し、森を整備する人たちを訪ねました。  

138㎞にわたる流域に27の市や町を抱えている多摩川の源流の村、山梨県の小菅村。明治時代に水道の仕組みが整備されてからずっと、連なる山の合間にある小菅村は水道水源林の村として、森を守り、水を守る役割を果たしてきました。  

冬晴れの空がまぶしいある日。新宿駅から快速で1時間半余りのJR奥多摩駅で下車し、東京都の小河内ダムを遡りながら小菅村へ入ります。案内はNPO法人多摩源流こすげの石坂真悟さん。村には10年前から多摩川源流大学という、東京農業大学と連携した機関があります。人口720人の村が学生たちを受け入れ、森林整備や畑仕事などの実習を通して交流しています。

手入れされている森は光が下まで入ってくる。森の手入れをする山梨県小菅村&多摩源流大学の人々。

 小河内ダムから続く国道沿いの川の流れから、坂道を上がり源流大学に到着。

早速、学生たちの研修会場を訪ねると、まさに森林の手入れの一つである伐採の仕方の講義中です。

学生たちが受ける木の切り方の講義(写真右)。
人工林の木の一部を伐採して、よい森林に育成する徐間伐(じょかんばつ)は冬季の大切な森林作業。手入れされた森林は下まで光が入ってくる。

水源の村での
学生たちの仕事

 樹齢100年の樹木もある、よく手入れされた森の脇でコナラの薪割りをする学生たち。村民の木下さんが手本を見せます。
「バッターボックスに立っているように、胸とおしりを同時に突き出す感じで」というわかりやすい説明に学生が斧を振り下ろすと、スパンと見事に割れました。
熱心な作業の合間に学生にインタビューしてみると、今日は川崎から来た学生が、「この水が、(水道の)水になるのか。水源の村を訪れると、水は大切にしようと思います」という声を聞かせてくれました。

学生たちの薪割りの作業を見学。普段なかなかしない動作だが、意外に上手!

 さらに、沢沿いに山の奥深く入った急な傾斜地で、わさび田の整備をしている学生たちを発見。わさびは清流でないとできないため、できるだけ水源に近く、きれいな水のほうがよいのですが、上ってくるだけでも大変な場所です。近年、山のカモシカがわさびを食べてしまう害が多く発生したので、被害にあったわさび田を撤去する作業でした。「カモシカは天然記念物だから駆除できないんです」と学生。人間と自然の共生、エコロジーの視点からも、様々な学びがあります。  若い力との連携は、少子高齢化の進む村に活力を与え、また学生たちは森での活動が、自分たちの日常生活がつながっていることを実感できるように思えました。

山からの清冽な源流が見事なわさびを育て上げる。山によって適度に日照がさえぎられることも育成には有利。

日本中の水源の村の
交流が水を守る

 「源流の村として、多摩川の源流から発信していくことが大切だと思っています」と、石坂さんは言います。下流域の人たちと交流する「多摩源流祭り」や、木曽川、四万十川など源流24市町村が加盟する「全国源流の郷協議会」など、その流れは全国の川にも広がっています。源流の自治体はどこも少子高齢化、人口減の悩みを抱えています。  

「課題はたくさんありますが、小菅村の取り組みは川の上流と下流の交流によって新しい人の交流を生み、また産業を生み、持続可能な社会を作っていくことが目標。未来のモデルになることができると思っています」(石坂さん)。  

水の一滴一滴が集まって大きな川になるように、日本中の小さな村が、源流が元気であれば、それは日本の社会に広がっていく。そんな風に聞こえました。  

日本は、世界の中でも質の高い水道水を利用できる数少ない国です。源流の村の森を整える取り組みは、恵まれた自然環境に、さらに人々の手が加わって、日本の水が守られていることを教えてくれました。

多摩川は山梨県甲州市の笠取山を源流とし、東京都の2 区・24 市町村、川崎市を流下し東京湾に注ぐ。流路延長138km、流域面積1,240km2 の一級河川で、流域内人口は425 万人。東京都水道局が管理する水道水源林は、小菅村を含む山梨県から、東京都西多摩郡奥多摩町にまたがる東西31 km、南北20 km におよぶ。

小菅村を案内してくれた石坂真悟さん(NPO法人多摩源流こすげ事務局、東京農業大学非常勤講師)。
東京農業大学在学中から小菅村にかかわり、2007年に多摩川源流大学が開校した後は、NPO法人多摩源流こすげとの兼任で活動している。
問合せ NPO法人多摩源流こすげ
電話 0428(87)7055