料理家山脇りこさんによる
記憶の中のあの味
記憶の中のあの旅
手づくり& 自家製を大切にする
りこ流レシピです。
レシピ作成・エッセイ/山脇りこ
構成/上坂美穂 イラスト/添田あき


作りやすい分量(4人分) | |
豚バラ肉 | 薄切り300グラム |
高菜 | 80グラム |
梅干し | 3個 |
ゴーヤ | 1本 |
ごま油 | 小さじ1.5 ほど |
*酢 | 大さじ1 |
*酒 | 大さじ2 |
浄水 | 50cc |
豚バラ肉は6~7センチに3等分し、ポリ袋などに入れて*を加えて揉み込む。
2.
ゴーヤは半割にしてワタを取り、4~5センチの短冊に切って半分に切る(大き目の三角になる)。梅は少しつぶす(種ごと使う)。
3.
鍋にごま油をひき、1とゴーヤを加え中火にかける。豚肉に火がはいったら、豚肉だけ皿に取り出す(固くなるため)。梅、高菜、浄水を加え、蓋をして火を弱め、5分ほど煮る。
4.
ゴーヤがしんなりして、煮汁が煮詰まったら、豚肉を戻し入れてからめる。

母の一つ上の姉、つまり私の叔母は、梅干しで、一目置かれていた。四姉妹みんなが作るのに、叔母の梅干しがダントツの人気。なんでかねー? と首を傾げつつ、叔母の指先を見て、「このゆびになんかあっとやろう(長崎弁で、このゆびになにかあるんだろう)」と。
「みどりのゆび」という大好きな童話がある。主人公の少年チト君が小さな指で触れるだけで植物は元気になり、葉がしげり、花が咲き乱れる。だから、魔法の“みどりのゆび”。それにならって、私は叔母の指を、梅干しの“あかいゆび”と呼んでいた。

あかいゆびの秘密はなにか? 他との大きな違いは、皮と果肉のやわらかさ。とにかくふわふわっ、なのだ。まるでジャムのような果肉を、ごはん全体にまぶしておにぎりにすると、梅の香りがまんべんなく行き渡り、いい塩梅でたまらなかった。たっぷりの果肉で和えるだけで、キュウリ、ナス、レンコン、タケノコ、どれも季節のごちそうになった。
ふわふわに仕上げるコツは、漬ける時に重石をかけすぎないこと。梅へのあたりがやわらかい重石にすること。そこで、叔母はいつも水の重しをしていた。やわらかいビニール袋に入れた水を重石代わりにそおおっとのせると、梅の形にそって優しく沈む。毎日様子をみながら水の重さを調整する。たしかに水なら重さの調整もカンタンだ。
干すときは、まず半日干してすこし乾いたら、梅酢に戻し、その後、日光だけでなく必ず夜露にあてる。そして時々、あかいゆびで、そーっと梅をもむのだ。そーっと、優しく。
自分ではじめて漬けた梅干しが理想とかけはなれていた時、ふっとあかいゆびが見えた。2、3年その通りにやってみたら、うちでもふわっふわの梅干しができるようになった。

そのころには、あかいゆびは梅干しから引退していた。きっといまごろは向こうで、みんなに梅干しをふるまっているだろう。なんとか引き継いだつもりの梅干しを食べてもらえなかったのは、いまも心残り。梅干しの季節になるといつも思い出す。

撮影/長谷川潤
エッセイにあった「水の重し」を使ったふんわり仕上がる梅干しのレシピです。赤紫蘇を入れない作り方なので、ほんのりとした色づきになります。完熟梅を使います。

材料(作りやすい分量) | |
梅(完熟の南高梅など) | 2キログラム |
焼酎(またはジン) | 大さじ2 |
梅酢(去年のものがあれば) | 1/2 カップ |
塩(不純物が入っていないもの) | 400グラム |
必要な道具
・4 ~ 5ℓ容量の口の広い容器
・冷凍用保存袋(大)2 枚
・天日干し用のざる

1.梅を洗って焼酎をまぶす
梅は洗ってへたをとり、30分ほど浄水にさらす。無農薬の場合も行う。ざるに上げ、さらしなどで水けをふきとる。ざるに並べ、15分ほど乾かす。梅の全量が入るボウルに梅と焼酎を入れ、全体に焼酎をまぶす。
◎焼酎をまぶしておくことでかびにくくなり、塩が均一に梅に絡みやすくなります。

2.梅に塩をまぶす
2/3量の塩を加えて、手で全体にまぶす。
◎梅の上に塩をのせるのではなく、あらかじめ1個ずつにまぶすことで梅酢が上がりやすくなります。

3.瓶を消毒する/漬ける
梅干し用の容器とふたを熱湯で洗い、焼酎(分量外)でよくふいて消毒する。重しに使う保存袋の外側も焼酎(ともに分量外)でふく。
容器に2を入れ、梅酢を加え(ない場合は入れなくてOK)、残りの塩をふたをするように詰める。
保存袋を2重にして7割ほどの水を入れ、重しとしてのせる。
冷暗所に置き、毎日様子を見る。3~4日して梅酢が上がってきたら保存袋の水を少し減らす。
梅が常に梅酢の中に浸った状態になるように。2週間ほどして完全に梅酢が上がったら(写真参照)重しを外してふたをする。
◎保存袋に入れた水を重しにすると、梅に圧力がかかりすぎず、かたくなったりつぶれたりするのを防ぎます。ふんわり仕上がるポイントです。

4.土用干し1日目
1ヶ月ほどしたら、この先3日晴れる日を選んで土用干しをする。ざるを台などの上に置き、下から風が通るようにする。
梅酢から取り出した梅を並べ、重ならないように(写真参照)すべて干す。上部が乾いたら返す。
1日目は6時間ほど干したら梅酢にいったん戻す。
◎干しはじめはざるの目に梅がくっつきやすいので、くっつきそうならときどき返しましょう。

5.土用干し2~3日目
2日目は午後から干し、夜間も干したままに。3日目の日暮れまで干す。天気に注意し、絶対に雨に濡らさないこと。干し上がったら容器に保管する。
◎とにかく晴天の日を選んで。夜間が不安な場合は室内に入れ、3日目を夜まで延長してもOK。

6.容器に保管する
干し上がったら(写真参照)容器に保管する。
◎3週間目くらいから食べられる。2~3ヶ月後からもっとおいしくなり、冷暗所で1年間保存可能。

山脇りこ
「いとしの自家製 手がおいしくするもの。」(ぴあ)
梅干し、ぬか漬け、白菜漬け、明太子、パテ・ド・カンパーニュ、白あん、粒あん……。一度は挑戦してみたい自家製からマヨネーズのような日常の自家製まで、安全でおいしい手作りレシピを100品掲載。
from c.c.cafe
どうして「自家製 ときどき旅レシピ」?
おいしかった料理を「どうやるんだろう? 自分で作ってみたい」と思うのは、どんな人にもある経験ではないでしょうか。旅の好きなりこさんは、旅先で出会った料理の記憶をいかして、りこ流に再現してみるそうです。それは日々の料理でも同じ。特に保存食は市販品で済ましてしまうのではなく、自分で素材を選んで作っ てみることで、新しい発見があります。この連載は『いとしの「自家製」 手がおいしくするもの』(ぴあ刊)のレシピを中心に、海外やりこさんの故郷の長崎をはじめとした国内の旅の風景を綴るエッセイとともにお届けします。
山脇りこさん
やまわき りこ
料理家。料理教室「リコズキッチン」主宰。旬の食材と丁寧にとっただし、伝統的な製法の調味料で作る、シンプルでセンスのよい料理が得意。自家製の味噌や梅干し、調味料作りはすでに生活の一部で、レッスンでも積極的に教えている。NHK『あさイチ』ほかTV 出演多数。
