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台湾の家庭料理ツァイプタン|山脇りこさんの「自家製」ときどき旅レシピ①

料理家山脇りこさんによる
記憶の中のあの味
記憶の中のあの旅
手づくり& 自家製を大切にする
りこ流レシピです。

レシピ作成・エッセイ/山脇りこ
構成/上坂美穂 イラスト/添田あき

卵料理のバリエーションは台湾エッセンスで!

R e c i p e P o i n t

材料は、干し大根を戻している間に、すべて準備して、調理し始 めるのがポイント。
卵は、卵液が瞬時に泡立って焼けるくらいフライパンを熱してか ら、焼きはじめます。


材料(2、3人分)
干し大根15g
醤油小さじ1~
*卵3個
*しょうが1かけ(すりおろし)
*ごま油大さじ1
*塩小さじ1/2
植物油適量


作り方

1.
干し大根は、ひたひたの水に30分ほどつけて、戻す。3センチ長さに切る。

2.
フライパンに植物油を入れ、1を炒める。しんなりしたら、醤油をからめ、皿にあげる。

3.
*を合わせてよく混ぜ卵液をつくる。再び油(少し多め、大さじ1くらい)を引き、フライパンを熱くして、卵液をじゃーっと流し入れ、1をのせてざっくりあわせる。皿に盛る。

 菜脯蛋は、ツァイプタンと読む。干し大根の卵とじ、あまりふわふわじゃないオムレツって感じの台湾の定番家庭料理だ。干し大根と言っても、日本のそれとは違って、台湾の場合は塩漬けしてあるので、これをしっかり戻して使うらしい。小さく切って、炒めたものが、揚げ焼きのように焼かれた丸い卵焼きの中に入っている。味は塩味のみ。実に素朴で、ものすごおく地味な1品。

 しかし、これがまあ地味だが滋味、たまらなくおいしい。特別な卵ではないだろうに、卵ってこんなに味わい深かったっけ? と。卵、干し大根、焼き油が相まって、じゅーっとうま味が染み出てくる。台湾の食堂で見かけると、その記憶が呼び覚まされて、必ず注文してしまう。
 ああ、どこかの家で家庭版を食べてみたいなーと妄想していたら、台北に住む知人のお母さんが家庭料理をふるまってくれるという、願ってもないチャンスがふってきた。友だちの友だちの友だち、くらいの間柄だけど、そんな私をも歓迎してくれるのが、台湾よいとこ、一度はおいで♪だ。
 何か食べたいものはある? と聞かれて、この際、すかさず、菜脯蛋! と言ってみた。えええ、あれ?あんな地味な? と、黙って頷く知人の顔に書いてあったのが、思い出しても笑える。

 お母さんは、小柄な身体のどこにそんな力が? と思うほど大きな、直径40センチはある中華鍋を、ブホッッ! と炎を上げるガス台にかけた。ごま油と供に熱々になった鍋肌に、ジャーっと小気味よい音をたてて卵液を入れると、ぶばぶば、ぼわっ! と気泡を作りながら、瞬時に、鍋に当たった部分の卵に火が入る。カリッとした、いっとうはじっこと、まだ鍋肌に触れていない無垢なふわっふわなレモンイエローのコントラストがはっきりと目で見えて、たまらなく興奮してくる。
 干し大根をざばっと入れる。ずっと最強の火のまま、鍋のほうを動かす天才的な火加減法で、ちゃっちゃと仕上げていく。もうここですでに、おまえは美味しい! 美味しいに決まっているーー!(心の雄たけび)。最後は鍋をふり、一気に包み込み、混ぜ込み、皿にすとんっと。

 すぐ食べて! と言われたときにはもう箸をもって皆が皿に群がっていた。もちろん私も率先して。『うまーーーーい。』『好好吃吃! (ハオハオツーオ:めっちゃおいしい!)』冷めても美味しい料理だと思っていたけど、何と熱々の「ハオツー」さよ! 潔い塩味と、大根の風味、火の当たり方で違う、卵のかりっと、ふわっと、じゅわっとな感じに箸が止まらない。
 それにしても、これぞ火のなせる料理。何でもない卵料理だけど、いやだからこそ、炎にしかできない料理としみじみ。私も、卵の料理だけは必ずガスで、炎で、鉄鍋でつくる。それでなければ出せない味わいってのがあるのだ。

 しかも、一見普通に見えたマンションのキッチンなのに、よく見ればゴトクの立派なこと。ミスマッチでさえある。聞けば、このごっついゴトクはお母さんの宝物で、前の前の家から、おばあちゃんも一緒にずっと使ってきたのだという。これに合わせてマンションのキッチンを作ったというこだわりっぷり。
 壁には大きな直径40~50センチの年季の入った中華鍋が3つ、磨き上げて並べてあり、お母さんはほとんどこの3つの鍋だけで家族を幸せにしてきたらしい。
 『菜脯蛋は、懐かしの味だね。私たぶん、お母さんのこれ、100回は食べてるよ。台湾では、昔ながらのって意味で、古早味(グザオウェイ)って言うよ。』と知人。うん、うん、何より、このガス台が古早味(グザオウェイ)だね、と私が言うと、お母さんもみんなも笑った。

from c.c.cafe

どうして「自家製 ときどき旅レシピ」?

おいしかった料理を「どうやるんだろう? 自分で作ってみたい」と思うのは、どんな人にもある経験ではないでしょうか。旅の好きなりこさんは、旅先で出会った料理の記憶をいかして、りこ流に再現してみるそうです。それは日々の料理でも同じ。特に保存食は市販品で済ましてしまうのではなく、自分で素材を選んで作っ てみることで、新しい発見があります。この連載は『いとしの「自家製」 手がおいしくするもの』(ぴあ刊)のレシピを中心に、海外やりこさんの故郷の長崎をはじめとした国内の旅の風景を綴るエッセイとともにお届けします。


山脇りこさん

やまわき りこ

料理家。料理教室「リコズキッチン」主宰。旬の食材と丁寧にとっただし、伝統的な製法の調味料で作る、シンプルでセンスのよい料理が得意。自家製の味噌や梅干し、調味料作りはすでに生活の一部で、レッスンでも積極的に教えている。NHK『あさイチ』ほかTV 出演多数。